約1100年前に書かれた平安時代の書物「延喜式」には「七夕にそうめんを食べると大病にかからない」と記されているそうです。三輪の地で受け継がれてきたこの習慣、ぜひ後世にも伝えたいですね。
奈良時代に中国から日本へ伝わったそうめん。桜井市にある三輪山のふもとは、豊饒な土地と清らかな水、気候にも恵まれ、そうめんの名産地として全国的に知られています。
三輪そうめんは、まず小麦と塩水でよく練っただんごを円板に伸ばし、渦巻き状の切れ目を入れて太い紐状にします。それを伸ばしてある程度の細さになったら、2本の棒に8の字に掛け、さらに細く伸ばします。そして、天日で乾燥させれば出来上がり。そうめんの生地は冬に作り、寒い時期に乾燥させ、夏に食べるのが一般的です。
さらに1年、蔵で寝かせたものは「古物(ひねもの)」と呼ばれており、より一層さらさらとした歯ざわりと強いコシを感じることができます。
七夕にまつわる伝説の中で、有名なのが、7月7日、年に一度しか会うことを許されない織姫と彦星のロマンス。そんな七夕にそうめんを食べると厄除けになると言われ始めたのは、平安時代。その頃の宮廷行事や儀式などの決まりごとを記した「延喜式」に「七夕にそうめんを食べると、大病にかからない」との記載があります。宮中でそうめんを食べたことから、一般にも普及していったようです。
極寒の頃できたそうめんを蔵で寝かせ、梅雨を越すとコシが強くなり茹でても伸びにくくなることを「厄をこす」ということに由来し、その結果、無病息災を願う食べ物とされたという説もあります。
平安時代より宮中に納める供え物として欠かせないそうめん。それは現代にも受け継がれています。毎年、皇室にそうめんを献上しているという、奈良県三輪素麺工業協同組合理事長、植田一隆さんに、三輪そうめんの魅力を聞いてみました。
「桜井でそうめん作りが始まったのは、神が住む聖なる三輪山のふもと。その昔、初瀬川や巻向川には水車があり、その動力を利用して小麦をひいていたんです。盆地特有の気候と、きれいな水も、そうめんの原料となる小麦の生産に適していました。今や機械での生産が多いなか、職人の手で丁寧に伸ばしていく、いわゆる手延べであるというのも特徴のひとつですね」
そうめんの名産地である三輪では、「七夕にそうめんを食べる」という風習は根付いているのでしょうか。「もちろん。この辺りではみんな七夕にそうめんを食べますね。やっぱり薬味は定番のショウガとネギが一番。さらっとしたのどごしで、暑い夏にはぴったりです。時には温かいにゅうめんもいいですね。冬なら、すき焼きの最後に入れるのもおすすめ。ダシを良くすうので、大変おいしくいただけます」
夏の風物詩ともいえる、そうめん。日々の食卓でいただくのはもちろん、七夕には、いにしえの伝説に想いを馳せながら、無病息災を願いつついただきましょう。
文:クボタ・ライティングオフィス渦巻き状の切れ目を入れて太い紐状にしているところ
天日で乾燥させて出来上がり
そうめんの盛り付け例
薬味、付け合せを加えて豪華に!
奈良県三輪素麺工業協同組合
住所:奈良県桜井市三輪 334-6
電話:0744-42-6068
設立:昭和25年2月25日